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東京地方裁判所 昭和47年(むのイ)1078号 決定

被告人 村松和行

決  定

(住居、職業、氏名、生年月日略)

右の者に対する窃盗被告事件について、昭和四七年一〇月三一日東京地方裁判所裁判官がした勾留の裁判に対し、昭和四七年一一月二九日弁護人森本宏一郎から適法な準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件準抗告を棄却する。

理由

一、本件準抗告申立の趣旨および理由の要旨

(一)  「原裁判中、勾留場所を代用監獄警視庁留置場とした部分を取消す。被告人に対する勾留場所を東京拘置所と指定する。」との決定を求める。

(二) 監獄法一条の趣旨に鑑みると勾留場所は原則として拘置監たる拘置所とすべきであり、これを代用監獄たる留置場とするためには、やむを得ない例外的な場合に限られるべきであつて、勾留場所の決定に際し、捜査の便宜を考慮することは許されない。被告人は、昭和四七年一一月一八日本件勾留の基礎となつた窃盗罪により東京地方裁判所に公訴が提起されており、右事件に関す捜査は既に完了しているにもかかわらず、勾留場所は、代用監獄たる警視庁留置場とされたまま、連日余罪ならびに本件につき取調を受けている。公訴提起後においては、捜査官による被告人の取調は許されないところであり、余罪捜査の必要性を理由として被告人を代用監獄に留置しておくこと自体許されるべきではないから、原裁判中勾留場所を代用監獄警視庁留置場とした点は違法である。よつてこれを取消し、勾留場所を東京拘置所とする旨の決定を求める。

二、当裁判所の判断

監獄法一条三項は、警察官署に附属する留置場はこれを監獄に代用することができる旨規定しているのであるが、勾留の裁判をするに際し、勾留場所を拘置監たる監獄にするか、代用監獄たる留置場にするかは、検察官の意見を参酌し、拘置所の物的、人的施設能力、交通の便否のほか、捜査上の必要性、被疑者または被告人の利益等を比較考量したうえ、裁判官の裁量によつて決定すべきものであつて、適法な捜査のための便宜は、当然これを考慮に入れることが許されるというべきである。一件記録によつて認められる原裁判当時における本件捜査の進展状況等に照らすと、勾留場所を代用監獄たる警視庁留置場と指定することが、特に被告人の利益を害するというような事情は認められないのであつて、原裁判が右のような指定をしたことが違法または不当であるとは認められない。また、申立人は、公訴提起後において、余罪捜査のため被告人を代用監獄に勾留しておくことは違法であり、従つて原裁判中勾留場所を代用監獄警視庁留置場と指定した部分は、現時点においては許されず違法となると主張するけれども、昭和四七年一〇月三一日原裁判によつて勾留され、その後同年一一月一八日本件窃盗の事実について公訴が提起されている本件においては、専ら原裁判の適否、当否を判断の対象とする準抗告審の性格上、右のような公訴提起後に生じた事由をもつて、原裁判の適否、当否の判断の資料とすることはできないものと解すべきである。(申立人は、公訴提起後の勾留を利用して不法、不当な被告人の取調が行なわれていると主張するが、被告人はそのような取調に応ずる義務がないのであるし、また保釈請求をすることもできるのである。)

よつて、本件は準抗告は理由がないから刑事訴訟法四三二条、四二六条一項により、主文のとおり決定する。

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